抜きん出た音楽的才能と圧倒的カリスマ性、ただ音楽を演奏するだけでなく、ビジュアルやプロデュース力にも長け、最先端録音技術・映像技術を用い多数の録音と革新的映像を残し、自家用ジェット機やスポーツカーを乗り回す等、名誉と富を得て「帝王」に君臨し続けたカラヤン。戦時中はナチス党員であったり、権威主義、利益主義と批判されアンチも多かったとは言え、音楽界・クラシック界にもたらした多大なる功績は誰しもが認める所だろう。
一方のアンチェルはグスタフ・マーラーが生まれた場所にも近いボヘミア地方出身(現在のチェコ南部)で、裕福なユダヤ人家庭に生まれ育つ。1933年にプラハ交響楽団の音楽監督に就任するが、1939年ナチスがチェコを併合後、ユダヤ人であったアンチェルはアウシュヴィッツへ送られ、両親と妻子はガス室で殺される。アンチェルのみが奇跡的に生還し、戦後楽壇に復帰、1950年にチェコフィル首席指揮者に就任。傾いていたチェコフィルを立て直し、1959年の来日では同時期に来日公演を行ったカラヤン&ウィーンフィルに勝るとも劣らない名演で喝采を浴びる。
しかし、1968年演奏旅行中に起こった”チェコ事件”(チェコ民主化運動「プラハの春」に対するソ連を中心としたワルシャワ機構軍の軍事介入)により亡命を余儀なくされる。1969年小澤征爾の後任でトロント交響楽団の常任指揮者に就任。1973年トロントにて死去。
悲劇に見舞われながらも、音楽を捨てなかったアンチェル。あるいは彼には音楽しかなかったのかも知れない。
平和な世、国に生まれ、一鑑賞者にすぎない単なる「音楽好き」でしかない私に、音楽とは芸術とは、そして平和とはを再考させてくれる存在でもあります。
数多くの名盤がSACD化されているカラヤンですが、アンチェルは昨年まではわずか3枚(スメタナ「我が祖国とドヴォルザーク「新世界より」シングルレイヤーどちらも現在入手困難。それとTBS音源の日本公演録音盤Amazon タワーレコード)。しかし今年に入り、タワーレコード企画でチェコフィル時代のスプラフォンの名盤がSACDシリーズ化しています。
スプラフォンのオリジナル・アナログ・マスターからDSD変換されたものをDXDにてリマスタリングされDSDに再変換された音源が使用され、緑色の盤面で所謂「音匠仕様」。リマスタリング・エンジニアは毛利篤(日本コロムビア)
管弦楽名曲集